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おとしあな ハワード・ローワン:著

原題はThe Up and Comer 

頭角を現した遣り手の人の意味だそうです

おとしあな 

ハワード・ローワン(Howard Roughan):著

本国で2001年に出版され、ハヤカワ・ミステリから同年6月に翻訳出版されました

著者は、コピーライターとして勤務中に、通勤電車の中で本書を執筆したそうです

[E:newmoon]

主人公は弁護士のフィリップ・ランドール

実家が大金持ちの妻トレイシーがいて、親友コナーの妻ジェシカとも不倫中

仕事も順調、家庭も順調

此処に何をやっても巧くいかないという、プレップスクール時代の同級生タイラーが、フィリップの不倫をネタに強請って来た

妻に離婚されたら、家もキャリアも失う

親友との友情もお終い

フィリップは、タイラーを殺害する事を思いつく

タイラー殺害は成功するのか、それとも…

[E:newmoon]

フィリップがなかなかの遣り手である事が分かるエピソード

勤務する弁護士事務所のボス・ジャックの妻サリーの、飲酒運転の罪を軽減させる為の処理をしていく下りが出て来ます

サリーはその大事な裁判ですら、景気付けに酒気をおびてきてしまいます

裁判長がサリーに電話番号を尋ねた時、ほろ酔いサリーは咄嗟に答えられず、フィリップは内心、

「πの平方根をきかれてるんじゃないんだぞ[E:sign01]」

と焦り、サリーが何とか数字をノロノロ答えたら、裁判長に

「それはお宅の郵便番号ですよ」

と指摘されて、窮地に陥ります

此処は、笑うしかないでしょう、読者は

πの平方根が例えにでる

電話番号を必死に答えるほろ酔いのボスの妻

それって郵便番号やん、とツッコミ入れる裁判長

結局フィリップは、お酒の臭いを誤魔化す為にサリーに与えた小粒ミントをヒントに、精神を安定させる為に彼女は薬を多めに服用してしまったと言い訳して、何とか窮地を脱却

お見事[E:sign01]

サリーが彼をベッドに誘いますが、流石にそれは断るジャック

恥をかかされてサリーが悪態つきましたが、夫にはちゃんと見事な手腕だったと報告したらしく、事務所内のフィリップの地位は更に向上

[E:newmoon]

コナーはとてもいい人で、ジェシカの事を愛しています

フィリップは罪悪感を感じています

でも、ジェシカとの不倫をやめる事は出来ません

トレイシーに感じていない感情を、ジェシカには感じているのでしょう

でも、フィリップが本当に欲しているのは、ジェシカではなく、ジェシカとすごす時間でもなく、ジェシカとすごしたホテルの部屋を後にする時の、人生を謳歌したかのようなあの感情を味わう事に思います

[E:newmoon]

タイラーが、フィリップをビビらせる為の大量のメールやファックスの送信、自宅への無言電話、不倫を臭わせる映画のビデオテープ送付などが、或る時パタっとやみます

これは、次に来る嵐の前の静けさにすぎないと、フィリップは感じます

遣り手弁護士は違うなあ

と思いましたが、でも、凄く共感できたのは、そう判断しているのとは裏腹に、もうタイラーからの嫌がらせはなくなったかもしれないと感じる、楽観的な部分でした

著者はこれがデビュー作との事ですが、このような心理描写が随所に出て来て、巧いなあと唸らせてくれます

もう一つ、成る程なと思う描写がありました

タイラーが金の受け渡しの方法を伝える為に、ブライアント公園にフィリップを呼び出した時の、向かいのベンチの付き添い看護婦とお年寄りの女性

昼間に男2人がひそひそやってるので、看護婦は変だと思っている様子

お年寄り女性がボーッとしている横で読書しているのですが、フィリップの方をみています

金額が跳ね上がったり、タイラーが言いたい放題をいう下りから、向いのベンチ2人の描写はきえます

ところが、話がおわってフィリップがベンチをたつ時には、看護婦もお年寄りもいないと書かれています

2人が立ち去ってるのをみている筈なのに、気付かなかったなとフィリップは考えます

こういう事ってありますよね

ましてやこんなシチュエーションなら、尚の事ありそうです

[E:newmoon]


フィリップが、タイラー殺害に必要なエーテルをインターネットで購入するところで驚いた事が有りました

ネットカフェに行くのですが、IDを取得しないと使用できない風に書かれています

その為に免許証や名刺を偽造したりして、カフェに入っています

日本のネットカフェはどうなってるのかな?

入った事無いので、なんか、ポッと入って、勝手にネットを使ってるイメージが…

[E:newmoon]

エーテルで意識不明のタイラーを部屋へ運ぶ時、階段を担いで上ります

かなりフィリップは、苦労してタイラーを連れて行ってます

次が3階だという階段まで来た時、3階の住民が鍵を開けて出て来る音がしました

下の階段から見ているフィリップには、ピンクのふかふかしたスリッパが動いているのが見えます

単にゴミ出しに出て直ぐ引っ込むのですが、この人物の動きをフィリップはピンクのふかふかスリッパで表すのが、緊迫した場面に笑いを生み出します

[E:newmoon]


成り行きで、タイラーの葬儀に参列する事になったフィリップとトレイシー

トレイシーが着ていく喪服を選ぶ時、

「アルマーニにするか、ダナ・カレンにするか
 どっちがいいかしら」

とフィリップに聞く場面がありますが、ダナ・カレンってダナ・キャランの事でしょうか[E:sign02]

[E:newmoon]


フィリップの一人称で物語られるのですが、ユーモアがちりばめられた文体が、やはり最後、彼が栄光から転落する辺りから変わってきたように思います

不倫なんかするから、こんな事になるんでしょと言ってしまえばそれまでですが、みんなが憧れるような生活をしていたのに、哀れな末路です

それでも、救いだなと思うのは、フィリップはやはりタイラーを殺せなかったという事です

良心が邪魔をしたんです

タイラーが気がついて反撃してきて、言うなれば、自分で頭打って死んじゃったんです

これで逃げてしまったからアカンのです

タイラーはちゃんと自分が殺される事もあり得るかと思って、不倫の証拠写真をコナーに届く段取りしてまして、それでコナーにも知れてしまったんです

コナーは不倫にも怒っているし、当然フィリップがタイラーを殺したと思っているし、修羅場どころか、フィリップを殺そうとして揉み合いになって、銃が暴発してしまって
命を落としてしまいます

この時もフィリップは、コナーに只管、詫びています

人も羨む生活をするには、もっと自分勝手でないといけないのかも知れませんね

そして最も救いだなあと思えるのは、2人の人物

事件が起きて、とっとと実家に荷物を持って出ていったトレイシーではなく

家も取り上げ、事務所にも圧力を掛けてフィリップからキャリアを奪ったトレイシーの父メトカーフではなく

事務所のボス、ジャックではなく

警察にフィリップを売ってしまったようになったジェシカでもなく

1人は同じ事務所に勤務する車椅子のシェプ

とっても前向きな人物で、こんな風に辞める事になったフィリップに、秘書のグウェンまでよそよそしい感じなのに、くだらない慰めも励ましもせず、唯、

「こう考えたらどうだろう、
 少なくとも、君はちゃんと歩けるよ」

と、座った姿勢で言うのです

2人は握手をして、そしてフィリップは連絡するよと言いますが

「嘘付け[E:sweat01]」

と苦笑するシェプ

物語の出番は少なかったけれど、印象深い人物でした

そしてもう1人は、サリー

お酒で失敗していたサリー

小麦粉を使っていないチョコケーキを食べながら、禁酒の報告をしていたサリー

第二級故殺という理由で起訴され、刑務所に入れらてしまったフィリップには面会に来てくれる人もいない

でも、サリーは来ました

小麦粉を使っていないチョコケーキを差し入れに持って

この2人が、フィリップにとって、本当は大切な人だったのではないか、など感じました

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